そ》うだろう?」
「おお、よく御存じで。此間《このあいだ》一度、軟派《なんぱ》の事件で始末書を取った奴です」
満足そうに同行の部下を顧《かえりみ》た赤羽主任は、初めて愉快らしい笑《え》みを浮べた。
樫田武平の取調べの結果、事件の一切は判明した。
彼は、かねて、若い女が苦悶《くもん》して死んでゆく所を映画に撮ろうという、大《だい》それた野心を持っていたのだ。それは、多分に彼の変態性の欲望が原因したのであったが、職業とする所の趣味道楽が、ひどく凝《こ》り固《かたま》ったことも一部の因《いん》をなしていた。で、彼は種々《いろいろ》と研究と計画を廻《めぐ》らした結果、それが夢でなく実現することが出来ることを発見した。それには、彼の行きつけの風呂向井湯という、電気風呂を利用することが、最も容易な手段であったのだ。
先ず彼は、日頃おさおさ怠《おこた》りなく向井湯の内外を研究し、それに、特有の肉体美を備えた若い婦人を一人選んで、彼女の入浴の際、特殊の方法で惨殺しようと計画した。
事件のあった日の暁《あかつき》、彼は自家《じか》の売品《ばいひん》たるフィルムを一本と現像液を準備して、それに
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