かかわ》らず、僅か幾分と云わせずして、女の屍体が発見されたではないか。女が、女湯の方へ入った時には、女の屍体はどうしても其処にあった筈である。それなのに彼《か》の疑問の女は何事も言わなかった。ひょっとすると、その女が、惨殺された女の着衣や下駄を自分の身につけて、澄《す》ました顔で表戸から出て行ったのではなかろうか? だが、もしそうだとすると、その女は一体何処から来て、彼女の真実《ほんとう》の着衣や下駄は何処にあるだろうか。仮に、その女が犯人だとしても、まさか女が裸体で天井裏にいたのもおかしいし、また女が女湯から活動を撮《と》るなども変な話である。
 ――そう考えながらも、赤羽主任は、孰《いず》れにしろ、その惨殺された女の着衣と下駄を探すことが、事件の解決に最も役立つものであることを知って、後ろに続いて来た部下の一人に命じた。
「由蔵の部屋の持物を全部洗ってみろ、女の持物が出て来るかも知れないからな」
 梯子を降りかかった刑事の一人は、そう云われて直《ただち》に再び部屋へ取って返した。
 やがて五分も経ったと思われる頃、その刑事は由蔵の部屋から顔を出して勢《いきお》いよく答えた。
「主任
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