い女湯の客が逃げ出す時、どうしてこの女が殺されたことを誰一人として知っていないのであろうか。いくら女は気が弱いと云っても、その辺のことを考えると怪しむべき余地は充分にあろう。が、これも、殺された女が事件を他《よそ》に悠々と落ついて、たった一人で何時までも湯槽《ゆぶね》に漬《つか》っているなり、流しているふりしていたと考えれば、幾分合理性も認められるが、浴客中に、もしもその様に落ついた女が一人も居らなかった場合を考えると、天井裏に穏れて、かねて計画の機会を待っていた犯人が人知れず或る女を殺したり、活動写真を撮影したりすることも不可能となって来るから、此の辺《へん》も尚不審である。
赤羽主任は考え疲れて、頭がフラフラするのを覚えながら、一同と共に再び階下に降りて来た。
由蔵の部屋から釜場《かまば》へと梯子《はしご》を降りている時、赤羽主任は、奥の居間から、湯屋の女房が茶盆《ちゃぼん》を持って出て来るのを見た。と、同時に、彼は、ハッタと、忘れていた或事に気がついた。先刻《さっき》、女房が云ったことには、釜場の下で変な裸体の女に突き当った。その女が「女湯の方は何事もない」と云ったのにも拘《
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