込んで来た近所の連中や通行人さえ、みんな留め置かれている。猫の子一匹だって表へ出たものがないとしたら、犯人は必ず此の向井湯の中に、依然として現在も居る筈に違いない。万一その犯人が由蔵の室の窓から外へ飛び出したとしても、見張りの警官に認められぬということはあり得ない。
第二に、由蔵が、何故《なにゆえ》にこの天井裏に異常のあることを認めて、此処《ここ》まで上って来たかということである。いくら気が顛倒《てんとう》していた場合とは云え、他の人間に知らせずに、こんな所へ一人で上って来る筈はない。
第三に、最も不審なことと云えば、女湯で惨殺《ざんさつ》された彼の婦人の着衣も下駄も一物として発見されぬ事である。仮に当時の女湯の客で、手の長い人間か、狼狽者《ろうばいしゃ》が居たとして、その女の着衣を持ち出したとしても、足袋《たび》の片足や、湯文字《ゆもじ》の一枚までも残さぬなどという大胆不敵な行動が、あの際出来るものでなく、下駄の無いことに至っては、もはやそんな生暖《なまぬる》い想像は覆《くつが》えされるべきことであろう。
最後に疑問として残ることは、当時数人居たと想像される、いや、居たに相違な
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