注意が男湯の方に集っている機に乗じ、犯人はその女を吹矢で殺して、その目的である活動写真撮影を完成し、兼《か》ねて恋愛の復讐か何かを遂行《すいこう》したものであろう。――と、これが、赤羽主任が匆々《そうそう》にまとめ上げた推理の筋道であった。
赤羽主任は考える。――それから由蔵は、何かの異常に気がついて、此の天井裏に上ってみたが、逸早《いちはや》くそれと知った犯人のために、物蔭から吹矢で射殺《いころ》されたに違いがない。それが証拠に、由蔵の屍体には、明かに格闘をした形跡が残っていないではないか。――
だが、これだけではまだ解《と》き足りない謎が大分沢山残されてある。
第一は犯人が一向《いっこう》遁《に》げ出した様子がないことである。此の風呂場で感電騒ぎが起ったとき、向井湯の直ぐ向う側にある交番の警官が、バタバタと飛び出して来た浴客の女達のあられもない姿を認めて、彼女等を訊問《じんもん》したことに依って早くも事件を知って、時を移さず表口や裏口に手配をしたことが報告されている。感電事件に居合せた浴客の男達も、陽吉の手当している間に、警官に堅く禁足《きんそく》を命ぜられていた。後から飛び
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