、吹矢の筒も片隅の方に発見された。パンの食いかけ、蜜柑《みかん》の皮、それらも決して忽《おろそ》かには出来ぬ発見物と見做《みな》された。
 赤羽主任は懐中電灯を藉《か》りて、由蔵の屍体の周囲を丹念に調べてみたのち、ちょっと首を傾《かし》げて云った。
「おい、誰かちょっと手を借して呉れないか。この屍体の頸を左へ、四五寸ばかし動かしてみるんだ」
 心得顔に一人が屍体の頭髪を掴んでズルズルと左へ曳き寄せた。と、赤羽主任は、吹矢の一本を取上げて、その尖端《さき》で由蔵の頭のあった辺を探っていたが、暫くすると、コツンと音がして、ポカリと眼の前に一つの穴が開いた。
「これだな!」
 赤羽主任は、その丸い穴から下を覗いてみた。果せるかな、眼眩《めま》いを感ずる程遥かの真下に、先刻《さっき》まで取調べていた女の屍体が横っている。――紛《まぎ》れもなく、其処は女湯の天井裏だったのだ。
 やがて、赤羽主任は、その節穴《ふしあな》をふさいでいた血染《ちぞ》めの栓《せん》を、吹矢の先に刺して懐中電灯の光を借りて、じいっと見つめた。それは、決して単なる木栓や、材木の節ではなく、実に巧妙に作り上げられた蓋様《ふた
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