よう》のものであった。そして、その金属の蓋の真ん中を打ち抜いて、円いセルロイドの小板が嵌《は》め込んであるものであった。が、それも矢張り血潮に染っていた。


     2


 次から次へと、意外な事件の連続と、それにも増して奇怪な事実の発見に依って、居合せた刑事連は、ひとしく驚愕《きょうがく》の眼《まなこ》を瞠《みは》った。が、誰よりも彼よりも、歯の根も合わない程|愕《おどろ》いたのは、向井湯の主人であった。
 自分の家の天井に、斯《こ》うした油断のならぬ節穴《ふしあな》があったことさえ、夢にも知らない事であったのに、その上、誰が持ち込んだものか、望遠鏡やら、活動写真の撮影機やら、吹矢やら、またパンの欠片《かけら》や蜜柑《みかん》の皮といった食物まで運ばれていた――など、何が何やら、彼にとって薩張《さっぱ》り訳の判らないことであった。しかも、日頃忠実であって、深い信頼を懸《か》けていた由蔵が、僅々《きんきん》の時間に、場所もあろうにこんな所に屍骸と化して横《よこたわ》っているとは!
 彼は、天井裏にペタンと坐ったまま、情ないのと恐怖とで涙に暮れていた。と、泣けて泣けて仕方がない程の
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