の天井へ抜けられるんですが、驚いたことに……」
 と、報告しながら、その刑事は天井を見上げたが、突然頓狂に叫んだ。
「吁ッ! あ奴《いつ》の血だ! 由蔵が殺られてるんですぜ!」
 赤羽主任は屹《きっ》となって、共に天井の血の穴を見上げたが、刑事の叫びを聞くより、
「うむ、人が死んでいたろう? 男か女か?」
「男です! しかも裸体です。どうも由蔵らしいと思われますが、足裏が白く爛《ただ》れていました」
「よしッ! 直ぐ行こう、案内をたのむ!」
 と、赤羽主任は、真先に立って裏口へ行こうとしたが、何事かに気がついたと見えて再び身を振り返って云った。
「だが、この女の身元だ。女の着衣《ちゃくい》を調べて見よう!」
 赤羽主任は、あちこちに転《ころが》っている桶類を跨《また》いで女湯の脱衣場《だついじょう》へ行くなり、乱雑に散らばっていた、衣類籠《いるいかご》をひとつひとつ探してみた。が、目指《めざ》す女の着衣も誰の着衣《きもの》も、一向に見当らない。
「おい、女の着衣《きもの》が見えないぞ、箱を探して呉れ」
 刑事達は、箱の扉《と》を片っ端から開いてみた。が、どの箱にもそれは見当らなかった。
前へ 次へ
全41ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング