めていた女の頸筋から一寸程離れた肩先に附着していた血痕《けっこん》が、チラリと閃《ひらめ》いたようだったからである。
「おやッ?」
と叫んだ時、チラッと再び、その辺の血痕は鋭く光った。そして、同時に、その血は頸筋へかけてすうっと流れ出したではないか? 思わず掌《てのひら》を出して、赤羽主任はその上へ拡げてみた。と、まさしく、ポトリと音がして、赤羽主任の掌上《てのうえ》には、一滴の血潮《ちしお》が、円点《えんてん》を描いた。
「ヤッ血だ!」
一層|頻繁《ひんぱん》に落ちて来る血潮を受け止めながら、赤羽主任は反射的に天井を見上げた。それに誘われて傍の人々もひとしく高い浴室の天井に首を廻《めぐ》らせた。
「やッ、あそこに、あんな、あんなものが――」
誰かが叫んだ時、一同の眼《まなこ》は同時に同じものを認めたのであった。
それは、高い高い、浴場特有の水色のペンキで塗られた天井であった。その天井の、ちょうど女の屍体が横《よこたわ》っている真上《まうえ》と覚《おぼ》しい箇所に、小さな、黒い環《わ》が見えていたのだ。いや、黒いと思ったのは、実は真紅な環で、血の滲《にじ》み出た環であったのだ。
前へ
次へ
全41ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング