て訊ねましたんです。すると、いいえ、何事もありません、と云って、そのまま此方《こちら》へ来た筈なんですのに――それで、今思い出したもんですから、ひょいと呟いたんですわ」
「ほほう、では君の見たという女は、此の死んでいる女客じゃなかったかね? よく見て御覧!」
赤羽主任にそう云われて、今度は眉を顰《ひそ》めながら、女房は再びチラリとその方を見たが、
「いえ、全《まる》っきり異《ちが》ってますわ。何しろうす暗いのと、上気《じょうき》していたのとで、はっきり見ることも出来ませんでしたが、わたしの見た女の方は束髪だった様に覚えています。此のお客さんは銀杏返《いちょうがえ》しですものね、――ですけど、肉附きや、体の恰好など、似ていたと思えばそんな気もしますけれど……」
赤羽主任は、無残《むざん》につぶされた女の銀杏返しの髪に視線を送った。――丸々と肥《こ》えた頸筋《くびすじ》に、血に塗《まみ》れた乱れ髪が数本|蛇《へび》のように匍《は》っている、見るからに惨酷《ざんこく》な犯行を思わせずにはおかなかった。
と、その時、赤羽主任の眸《ひとみ》はパッと大きく見開いた。というのは、その今しも見つ
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