、低い、ややもすると隣の人にさえも聴き取れないような口籠《くちごも》り方で、女房が呟《つぶや》いた。
「……しかし、変だこと!」
「何? 何処が変だね?」
赤羽主任の声に、一同は女房と共にはっと眼《まなこ》を上げた。そして、赤羽主任の眼が女房の言動《げんどう》に何事か関心を持ったらしいことに気がついて、一層緊張した沈黙が生れた。
女房は、飛んでもないことを云ってしまった、という様な不安を以て、まじまじと赤羽主任の眼を視返《みかえ》した。
「今、変だこと! って云ったじゃないか?」
「ええ、でもそれは――」
しかし、女房は云い逃れることの無駄を知って、おずおずと口を開いた。
「いえね、先刻《さっき》男湯で沈んだお客の体が見つかったとき、それがわたしの鼻の先なんでしょ。わたし、びっくりしちゃって奥へ逃げ出そうとしたんです。すると、ちょうどその時、女の人が一人、裸のまんま、わたしと衝突《ぶつか》ったんです。思わず、いけません、早くお帰んなさい――って、わたしが云いますと、その方、この女湯の方へ帰ってしまいましたが、その時もしやと思ったもんですから、私は、女湯の方は何ともありませんか、っ
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