をみせて、その年若い婦人の裸体が不自然な姿態《したい》をその中に示しているのであった。――
赤羽司法主任は、たった一人でつかつかとその屍体《したい》に近づいて調べてみた。
女は、もはや夙《と》うにこと断《き》れていた。そして、左の頸と肩との附根《つけね》の所に、鋭い吹矢《ふきや》が深々と喰い込んで刺《ささ》っている。夥《おびただ》しい出血は、それがためのものであるらしい。が、その婦人の身体には、未だ幾分か温《あたたか》みが残っていた。肉附のよい、見るからに豊満な全身に亘《わた》って、まだ硬直の来《きた》していないことが、誰の眼にも生々しい事件を想像させた。恐らく此の女は、男湯の騒ぎの最中《さなか》に殺されたものであろう。そう想う人々の面に、何がなし深い恐怖と不安が漂《ただよ》い初めたのを、赤羽主任も一通り看取《かんしゅ》する余裕を持っていた。
だが、見渡したところ、浴室の窓が開いている訳でもなし、吹矢を打ち込む隙間があろうとも思われなかった。と、赤羽主任の頭にさっと閃《ひらめ》いたのは、由蔵が姿を見せないということである。
「君、ちょっと、釜場の上にある由蔵の部屋を捜索して呉れ給
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