一はマルの頭をなでながら、立ちどまりました。
 その時でした。マルがひくくうなりました。高一のさとい耳は、この時、たれか人の話しごえが、ほら穴のもっとおくの方から、ぼそぼそきこえてくるのをききつけました。「おや、こんなほら穴のなかに、たれか人間がいるよ」
 高一はふしぎにおもい、マルの首をおさえながら、しずかに、ほら穴のおくの方にちかづいて行きますと、とつぜん、
「さあ、どうしてもいわねえというのだな」
 と、どなるこえがきこえました。
 高一がおどろいておくをのぞくと、そこには、めずらしく電灯などがとぼっていて、五、六人のあらくれ男が、まるいかたちにすわっています。そして、そのまんなかに、一人の男がしばられていました。
 かわいそうなのは、そのしばられた男です。身うごきもできないばかりか、おおぜいのあらくれ男から、ひどい目にあっています。
 ちょうど、高一のみている方からは、そのゆわえられた男はうしろむきになっていたので、だれだかよくわかりませんでした。もし、高一にその男の顔が見えたなら、どんなにおどろいたことでしょう。その時、しばられていた男は、きっと顔をあげると、
「いくらきいて
前へ 次へ
全54ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング