兵がとびだしました。
「……」
 高一は口をきかないで、かごのりんごをゆびさしました。そしてむしゃむしゃたべるまねをして、ほっぺたがおちるくらい、おいしいぞという顔をしてみせました。敵兵は、
「なんだ、お前は口がきけないのか。りんごを買えというのだな。なるほどうまそうなりんごだ――しかしこの小僧め、どこから来たか、ゆだんがならないぞ」
 と、つばをのみこんだり、目をむいたり。
 高一は、敵兵と仲よしにならなければいけないと思い、一番おおきいりんごをひとつとって、敵兵の手にのせてやりました。
 敵兵は、おどろいた顔をしましたが、やがて、ポケットからお金を出そうとしますので、高一は、いらないいらないとおしかえし、そして、早くたべろと手まねですすめました。
 敵兵はりんごをたべると、きげんよくなりました。そこで、高一はトーチカの方へりんごを売りにゆきたいから、つれていってくれと手まねをし、またひとつりんごをやりました。
 このよくばり敵兵はすっかりよろこんで、高一を、トーチカの方へつれてゆきました。
「おいみんな、うまいりんごを売りにきたぞ」
 そういうと、中からどやどやと敵兵があらわれまし
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