きたのでしょう。
「ああ、かわいそうな妹……」
 ミドリは、兄の高一が山の上から見ているともしらず、しょんぼりとして、わる者たちに手をひかれていました。村の見世物小屋からさらわれたままのすがたです。団長は、このかわいそうなミドリを、どうしようというのでしょうか。高一はすぐにもとんでいきたいきもちでしたが、そんなことをすれば、またいっしょにつかまると思って、がまんしました。
 高一はすき腹をかかえて、夜をむかえました。わる者たちの方は、海べりにテントをはり、さかんに火をもやして、なにかうまそうなたべ物をにているようです。
 高一は、うら山からぬけだすと、そっと、テントの方へおりてゆきました。さいわい、たれにも見とがめられずに、テントに近づくことができました。
「団長、こんな足手まといの娘なんか、ひと思いにころしてしまった方がいいじゃないか」
 たれかが、おそろしいことをいっています。
「ばかをいえ。お前にはまだわからないのか。この娘をつれていって父親をせめりゃ、こんどこそは、日本軍の一番だいじにしている『地底戦車』が、どんなもので、どこにかくしてあるかをいわせることができるじゃないか」

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