がついたときには、たるはしずみもせず、波のまにまに、ただよっているようでしたが、体はぐったりつかれて、ねむくてしかたがありません。


   無人島


 それからいく時間たったのか、おぼえていませんが、高一は、ねむりからさめました。
「おや、海の中にゆられゆられていたと思ったのに、これは、いったいどうしたんだろうなあ」
 まったくへんなことでした。高一は、やはりたるの中にとじこめられているのにたるはゆれもせず、じっとしているのです。
「これはたいへんだ」
 高一はたるのそとに、なにか音でも聞えはしないかと耳をすましましたが、なんの音も聞えません。そこで、大決心をして、たるのふたを力まかせにおしました。
 ふたは、ぽかりとあきました。高一はたるの中から首を出しました。
「あっ、海岸だ!」
 嵐はすっかりおさまり、朝日はまばゆく海上にかがやいていました。あたりはまっくろな砂が、いちめんにある美しい海べですが、うしろには、けわしい岩山がそびえていて、おそろしげに見えます。
「ここはどこだろう」
 高一は、たるのなかから出て、めずらしげにあたりをながめました。まったく見たこともないところです
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