ても面白いというので、春ちゃんが、退屈さましにときどき用いる。外《ほか》の女給も人の悪いのばかりで、めいめいの客をほったらかして置いてわざわざこれを見に来るという騒ぎさ。その騒ぎが大きくなりすぎたと思われる頃になると、鈴江という半玉《はんぎょく》みたいな女給が青い顔をして皆のところへやって来る。「あたい、気味がわるいから、キャッキャッ言わせるの、よしてよ」そういうと春ちゃんが、鈴江をぎゅっと睨《にら》んで、何か呶鳴《どな》りたいらしいんだが、そいつをモグモグと口の中に押しかえして黙っちまう。この気配《けはい》に一同もくさっちゃってそれぞれ元の客席へ退散という段取りになるのが例だった。この光景を、見ていて見ていないふりをしている奴に、カウンター兼給仕長の圭さんというのが居る。これは本名を鳥居圭三《とりいけいぞう》という三十五にもなる男でカフェ・ネオンの現業員《げんぎょういん》の中でも最年長者なのだ。こいつは、内々《ないない》春ちゃんに気があるらしい。もっとも春ちゃんはネオンのプリマドンナだから、お客といわず、従業員といわず、なんとかなるものなら是非一度は桃色のチャンスを持ちたいものをと願
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