いじゃないの、オーさんッ」と、尻上りの黄色い声を浴びせかけられていたものさ。この岩田の京ぼん[#「ぼん」に傍点]、本名《ほんみょう》京四郎というのは、カフェ・ネオンから一丁ほど先にある電気商の若主人で、ネオンの新築当時、電燈や電熱器の配線工事をやった関係があって、それからこっち、客になってはウイスキーを舐《な》めに来たり、また出入《でいり》の電気屋として配電の拡張《かくちょう》工事や、問題のネオン・サインの電気看板の取付けにやって来たりなどして、どっちかと言うとカフェ・ネオンの特別客というわけだった。尤《もっと》も若い男のことだから、美しい女給の誰かにお思召《ぼしめし》のあったらしいことは言うだけ野暮《やぼ》である。話がどうやら脱線の模様だが、京ぼん[#「ぼん」に傍点]に電気で殺して貰えなどと言われると、岡安先生は眼を一ぱい見開いたまま、一同から身を遠ざけるために、隅っこの羽目板《はめいた》へペタンと身体をへばりつけてしまう。そのとき春ちゃんが「ホラ懐中電燈! ホラ、電気よ!」と言って岡安の横腹を、ちょいと突《つ》っつくと彼はキャッと言うような声をあげて三尺ばかり飛び上る、その恰好がと
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