手に入れ、岡安も春江のことなどを忘れてしまったかのように鈴江と喃々喋々《なんなんちょうちょう》の態度をとった。それでコックの春吉はすっかり憤慨《ふんがい》し、この復讐《ふくしゅう》を計画したわけなのだ。彼は元々《もともと》、極端な享楽児《きょうらくじ》で、趣味のために、いろいろな職業を選び、転々《てんてん》として漂泊《さすらい》をした。その間にも電気の職工にもなって高圧電気の取扱いも知っていた。更にわるいことは、従妹《いとこ》の春江の感電死に遭《あ》ったために、彼の享楽主義は、怪奇趣味にめらめらと燃え上った。復讐手段としては、鈴江を直ちに殺さずに鈴江のやったと同じ手段で、次から次へと若い女を殺して行き、だんだんと嫌疑が鈴江の方に向いて来るような途《みち》をとらせ、思う存分《ぞんぶん》、鈴江を脅迫し恐怖させた上で、最後に惨殺《ざんさつ》してやろうと思ったのである。ところが、その手はじめとしてふみ子を殺してみると、鈴江はたちまち犯人が彼であることを感付いてしまった。二人は睨《にら》み合《あ》いの状態となり、お互《たがい》に持つ兇状《きょうじょう》は、二人を奇怪きわまる共軛関係《きょうやくか
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