ておきの話をするが、実はカフェ・ネオンの惨劇《さんげき》の犯人と目される春吉と鈴江の関係について、僕が知っていることがある。鈴江は自分の惚《ほ》れている岡安と情人《じょうじん》たる春江とのよい仲に極度《きょくど》の嫉妬《しっと》をおこし、二人の逢瀬《おうせ》が度々《たびたび》屋根裏の物置で行われているのを知ったもので、とうとうたまりかねて、春江を殺す決心をした。彼女はだれにも洩《も》らさなかったが昔、××電気会社で高圧係の女工だった関係で電気の取扱い方を知っていたので、それを利用したというわけだ。兇行前《きょうこうぜん》、同室に熟睡中の同僚を麻睡薬《ますいやく》を嗅《か》がせてよく睡らせてしまい、兇行後には自分もみずからこの薬の力を借りて熟睡に陥り巧みにみんなの眼をごまかしていたものである。
コックの春吉は、実は殺された春江の従兄《いとこ》にあたる男だが、その関係を隠してカフェ・ネオンにやとわれていた。春江が鈴江に覘《ねら》われていることを感付いてはいたが、とうとう彼の注意の届かないうちに春江は殺されてしまった。鈴江は春江を殺しただけではなく、春江の情人《じょうじん》たる岡安を完全に
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