いばかりか、大きい恐怖さえ感じている岡安に、電気殺人ができる筈はないというので、犯人たるの嫌疑《けんぎ》は薄くなった。それに係官は彼のために、電気看板が瞬《まばた》くように見えるのも、その途端《とたん》に電気抵抗のすくない人体《じんたい》の方へ電気が流れるため、電気看板の方には電気が通らぬこととなり、それで一寸《ちょっと》消えるのだと説明してやっても彼には、サッパリ理解がつかなかった。兎《と》も角《かく》も春江|惨殺《ざんさつ》の夜の岡安の行動には、尚《なお》いくぶんのうたがいが残されている。又、彼が、何故《なにゆえ》に、この寒い二時三時という深夜にひとり起きいでて屋上に立ち、カフェ・ネオンの電気看板を眺めくらしているものか、これについて岡安の語るところによると、春江と電気看板の点滅《てんめつ》を合図に逢瀬《おうせ》を楽しんでいたことが忘れられず、今は鈴江と仲のよくなった今日も、毎晩のように十三丁も遠方《えんぽう》から、あの桃色のネオン・サインをうっとり見詰《みつ》めていたそうで、そうした生活が、なにより、彼にとって楽しい時間であり、寒さもなにも感じないと答えた。
 そこでいよいよ取っ
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