と右の方へ傾くと、まだその儘《まま》にしてあったお千代の屍体がぬっと白日《はくじつ》のもとに露出してきたもんだから、見て居た係官や群衆は、わっと声をあげると共に、顔の色を真蒼《まっさお》にしてしまった。その隙《すき》に岡安はとび上って何だかわけのわからぬことを呶鳴《どな》りちらしては暴れていた。「春公《はるこう》の怨霊《おんりょう》め、電気看板に化けこんだって、僕はちゃんと知っているぞ。僕が殺せるんなら、サアここまでやって来て殺してみろ!」彼は電気看板を春ちゃんの死霊《しりょう》と思い誤《あやま》っているのであった。警官は、この気が変になってしまったらしい岡安を手とり足とり連れて行ってしまった。騒ぎがますます大きくなってゆく内に、女給の鈴江と、コックの吉公とが、全く行方不明になっていることが報告された。それ以来、今日《こんにち》に至るまで二人の消息は、警視庁にとどかないのである。警視庁では、その夜、電気商の京ぼん[#「ぼん」に傍点]を釈放《しゃくほう》し、圭さんの嫌疑《うたがい》も晴れた。岡安巳太郎は気がすこし鎮《しず》まったところで、色々と訊問《じんもん》をうけたが、電気的知識に乏し
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