官は犯人の嘲弄《ちょうろう》に悲憤《ひふん》の泪《なみだ》をのんだ。そして即時、このビルディングの徹底的家宅捜索の命令が発せられた。
 その取調べの最中に、フラフラとやって来た岡安巳太郎が苦もなく刑事の手にとり押えられたのは、気の毒にも滑稽《こっけい》であった。
「ゆうべ、誰かがカフェ・ネオンで殺されたでしょう、刑事さん、僕は知っとる。だから、こんな化物《ばけもの》のような電気看板は壊《こわ》してしまえと僕は忠告しといたのです。それにひとの言う事を信用しないものだから、又誰かが殺されちまったじゃないか。今度は誰です。え、お千代、千代ちゃんか。すうちゃんはまだ生きていますかネ。可哀《かわ》いそうな千代ちゃん。あの子の死んだのは、やっぱり今朝の二時二十分です。僕はちゃんとこの眼で、現在みていたんだからな。この看板のやつ、また瞬《まばた》きをしやがった、この化物め!」刑事がこの厄介《やっかい》な男を制する間もなく、岡安は路傍《ろぼう》の大きな石を拾い上げると、パッとネオン・サインを目がけてうちつけた。恐ろしい物音がして、サインの硝子《ガラス》が砕《くだ》け、電気看板が壁体《へきたい》からグッ
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