ないの。いやあなひとね。ここの中にはそりゃとても怖ろしい人が居るのよ。人間の生血《いきち》でも啜《すす》りかねない人がネ。今にわかるわ、畜生」
「すうちゃんは、人殺しをやった奴を知っているのかい」
 新しい客がドヤドヤと扉《ドア》のうちへ流れこんで来て、岡安の隣のボックスを占領してしまったので、きわどい話も先ずそれまでだった。
 その日の午後四時になって警視庁へ大学からの報告が届くと、捜索方針《そうさくほうしん》が一変した。朝から拘引《こういん》されていた給仕長の圭さんと、コックの吉公とが、夕方になって一|先《ま》ず帰店《きたく》を許され、これと入れかわりに電気商岩田京四郎が、検挙《あげ》られてしまった。調べ室は金モールの眩《まぶ》しい主脳《しゅのう》警官と、人相のよくない刑事連中の間に、京ぼん[#「ぼん」に傍点]を挿《はさ》んで場面はいとも緊張している。
 岩田京四郎はなかなか白状しない。しかしそれはもう時間の問題であると係官の方ではたかをくくっていた。というわけは、大学の報告で初めて判った新事実によると、第二の犠牲者ふみ子の死体剖検の結果、兇器を刺しとおしたため出来た傷口の外《ほか
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