知っているのよ。たとえば、死んだ春ちゃんとあんたが、密会の打合わせをあの電気看板の点滅《てんめつ》でやっていたこともよく知ってるわ。さア今更《いまさら》驚くに当りやしない。春ちゃんは、毎晩十二時になると、あの電気看板のスイッチを切ったり入れたりして、電信のような信号をすると、ご自分の家の屋上でその信号を判断しては、その夜更《よふ》け、ここのうちの裏梯子から三階の屋根裏の物置へあんたが忍んで来るのだったわネ。電気看板の信号なんかは使わないけれど、其外《そのほか》は丁度《ちょうど》このごろ、あんたとあたいが繰《く》りかえしている深夜のランデヴウみたいにネ。まあ、くやしい。どうして忘れるもんか、あの春ちゃんが殺される日、あたいは屋根裏の物置の中に鼠かなんかのように蠢《うご》めいている[#「蠢《うご》めいている」は底本では「蠢《うごめ》めいている」]あんた達を見せつけられて、あたし……。オーさん。今の話をすると、とんだ騒ぎができますよ。黙っているのよ、わかって」
「春ちゃんを殺したのは、僕じゃない。ふうちゃんを殺したのも、亦《また》僕じゃないんだ」
「そんなことを訊《き》いているんじゃないじゃ
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