あろうか。
ゴールド大使は、そこで一段と声をはげまして、
「では、こっちから申上げましょう。アカグマ国は、イネ州を統治すること三十年、千二百キロの暖かい海岸線を得、そしてそれにつづく数百万平方キロの大洋を擁するに至ったと、仰有ったではありませんか。それとも、それを否定なさいますか」
女史は、語尾をヒステリー患者のそれの如く震《ふる》わせて、大総督につめよった。
一座は、この予期しなかった抗議の一場面に、急に白け亘《わた》った。
「あっはっはっ」
大総督は、はじめさっと顔色をあおざめたが、すでに彼の面上には、赤い血がうかんで来た。そして腹を抱えて、哄笑《こうしょう》したのだった。
「あっはっはっ。それはとんでもない誤解です。わが国と貴国とは太青洋を間に挟んだ世界の二大強国である。太青洋は、永遠に両国の緩衝《かんしょう》地帯である。太青洋のあるお蔭で、これら二大強国は、永遠に衝突を回避できるであろう。されば、両国にとって、太青洋の存在こそ、このうえない幸運なる宝物だと、いわなければならない。どうです、大使閣下、おわかりですか。わしが(太青洋を擁し云々《うんぬん》)といったのは、そう
前へ
次へ
全75ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング