く資材となって、アカグマ国のために、日夜労働を強《し》いられているというわけだった。
 実は、今日は、イネ国滅亡の三十周年に当るのであった。滅亡の日の当時の生残《せいざん》イネ人の間に、その後生れ出でた子供たちは、大きいところでは、もう三十一歳になっている。しかし彼等は、イネ人の魂を全然失って、今はすっかりアカグマ国の労働奴隷の生活に甘んじているのであった。
 イネ国滅亡の日に、魂ある男子はもちろん、女子も共に祖国に殉《じゅん》じた。魂のない生残り者として生れた子等は、ついに永遠に、魂を持つ機会を与えられないのであろうか。


   大総督と女大使

 このイネ州の首都オハン市は、深い湾の奥にある人口五百万の都市だった。
 その湾から、太青洋を通ずるには、天嶮《てんけん》ともいうべき狭い二本の水道を経《へ》るのであった。東に向った水道を、紅《べに》水道といい、南に向った水道を黄水道という。
 今日、祝勝日にあてられたイネ州大総督のベル・ハウスからは、この二つの水道が、手にとるように見え、天気のいい日には、太青洋の青々とした海面さえ、はっきり望まれるのであった。
 ベル・ハウスは、人工で
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