出来た大きな丘のうえに立った古城のような高層建築であった。
 その宏大《こうだい》な広間や、屋上や、廊下や、そしてバルコニーまでが、今日は生花とセルロイド紙とをもって、うつくしく飾られていた。そしてけばけばしく着飾ったアカグマ人がこれから始まるさまざまの余興の噂をしたり、間もなく開かれる大饗宴《だいきょうえん》の献立について語りあったり、ここばかりはまるで天国のような豪華さであった。
 祝典を、とどこおりなく終えたアカグマ最高行政官の大総督スターベア公爵は、幕僚委員と、招待しておいた各国使臣とに取り囲まれて、子供のように、はしゃいでいた。
 大総督は、あか茶けた太い髭《ひげ》を、左右にひねりのばしながら、
「いやあ、愉快このうえなしじゃ。このイネ州の統治も三十周年をむかえてごらんのとおり、まず完成の域に達した。わがアカグマ国は、従来は、寒い山岳地帯に、吹雪《ふぶき》と厚氷とを友として、小さくなっていたが、今や千二百キロに及ぶ暖かい海岸線を領し、それにつづく数百万平方キロの大洋を擁して歴史的な豪華な発展をとげた。われわれは、この新しき国の富に足をおき、更に国運の一大発展を期するものである
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