「ああ、そうしよう。現在、われわれ旧イネ国の亡民には、人間味なんて、むしろ無い方が、生活しよいのだ。一匹の甲虫《かぶとむし》が、大きな岩に押し潰《つぶ》されりゃ、もうどうすることも出来ないのだからな、アカグマ国はその大きな岩でわれわれの祖国イネ国は、所詮《しょせん》甲虫にしか過ぎなかったんだ」
「もう、なんにもいうな。さあ、いこうぜ。皆も、あのとおり、街を急いでいらあ。こんなゆっくりした休日なんて、われわれのうえにもう二度と来るかどうか、わからないのだ」
「よせやい。なんにもいうなというお前が、その口の下から、愚痴《ぐち》をこぼしているじゃないか。身勝手な奴だ」
「ふん、その身勝手という奴が、イネ国を亡ぼしたようなものだ。ああ」
 二人は祝勝会場の前へと流れゆく群衆の中に、まぎれこんでしまった。
 このイネ州にうようよしている労働者は、いずれも、元イネ国の国民だった。アカグマ国がこの地を平定してから後、夥《おびただ》しい殺戮《さつりく》がつづいたが、その後には、婦女子と、そして男子は老人か、さもなければ、以前からアカグマ国に通じていた者だけが残った。そして彼等は悉《ことごと》く、働
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