背中の無電機から出しているはずの電波がとまっていた。
(無駄なお喋りをしていたんだな)
と、気がついて、幾度《いくたび》もスイッチを入れ直してみたが、機械はもう役に立たなかった。いつの間にやら、故障になっていたのである。
「中尉どの。無電機が……」
と、モグラ下士が、叫んだとき、その声を、おさえるようにカモシカ中尉が、彼の腕をつよくつかんだ。
「おい、あれを見ろ。第一要塞は、とくの昔に敵に、占領されていたんだ」
「えっ、占領されましたか」
「ああ、あれを見ろ。要塞の上に、敵の旗が、ひらひらと、はためいているぞ」
「どこです。闇夜に、要塞の上にたった旗が見えるのですか」
「見えるじゃないか。もっと、こっちへ寄ってみろ」
カモシカ中尉にいわれて、モグラ下士がその方へ頭を寄せてみると、なるほど、おどろいたことに、要塞のうえに、旗が見える。しかも、その旗には骸骨《がいこつ》の印がついているのが、はっきり見えた。
「あっ、骸骨の旗! あれは、アカグマ軍には見当らない旗印ですね。一体どこの国の旗ですかねえ」
「さあ、おれにも分らない」
と、中尉は、吐き出すようにいったが、
「だが、あの旗が
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