ろう……”
カモシカ中尉は、おどろいて、また傍から、モグラ下士の横腹をついた。
「おい、報告に、議論は不用だ。見て明かな事実だけを、簡潔に打電するのだ。――怪物どもが、こっちの方を透かして見ているぞ。早く無電を切り上げないと、危険だ」
「はい、わかりました」
モグラ下士は、また無電報告をはじめた。
“さっきの続きだ。いいかね。――敵はいずれも全身から蛍烏賊《ほたるいか》の如き青白き燐光《りんこう》を放つ。わしは幽霊かと見ちがえて、カモシカ中尉から叱られた。敵は、その怪奇なる身体をうごかしてカモシカ中尉と余《よ》モグラ一等下士の死守する陣地に向い、いま果敢なる突撃を試みようとしている。この報告は、恐らくわが陣地よりの最後の報告となるべく、われらの壮烈なる戦死は数分のちに実現せん。金鷲勲章《きんしゅうくんしょう》の価値ありと認定せらるるにおいては、戦死前に、電信をもってお知らせを乞《こ》う。スターベア大総督に、よろしくいってくれ。報告、おわり。どうだ、こっちの喋ったことは、分ったか”
“……”
司令部の通信兵からは、何の応答もなかった。モグラ下士が、気がついてみると、いつの間にやら、
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