にッ、早くいえ!」
そういう間にも、カモシカ中尉は、怪しい呻りが空中にだんだん大きくなるのを聞きのがさなかった。
「本営命令。敵はキンギン国なり。キンギン国の進攻命令をつたうる電波は、空中に次々に放送されつつあり。やがて海上に敵艦隊は姿を現わさん。敵の攻撃は第一岬要塞附近に集中せられ、強行上陸を企《くわだ》つるものと思わる。依《よ》って、わが軍は、全力をあげて守備を固くし、敵を撃退すべし」
通信兵は、耳に入る本営からの命令を復唱した。そして、一方の手をつかって、巧みにそれを録音した。中尉からの命令があり次第、すぐにも全軍に、それを放送する準備のためであった。
「ふーむ、敵はキンギン国か、畜生!」
と、カモシカ中尉は、鎧をぽんぽんと叩いて、怒りのこえをあげた。
「中尉どの。これを全軍に伝えますか」
「うむ。敵はキンギン国なり。わが軍は、全力をあげて、守備を固くし、敵を撃退すべし――というところだけを、放送せい」
「はい」
そういっているうちに、例の怪しい呻りは、急に頭上にさし迫ってきた。
「あの呻りは?」
と、カモシカ中尉が叫んだ。
火の海
とつぜん、眼がくらくら
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