じゃあ、一体敵は、どこのどいつだろうかしらん」
「それは、おれの方で、たずねているのじゃないか」
 兵士たちは、とりどりの噂をしている。彼等は、まさか大総督が、太青洋を距《へだ》てたキンギン国を疑っているのだとは、想像もしていなかった。事実、今日まで両国の間には、別に問題になるような事件がなかったのである。
 カモシカ中尉は、若い将校であった。年齢は、わずか十八であったが、頭脳もよかったし、学科の点も、練兵の成績もよかったので、中尉に任ぜられていた。彼もいま一隊の歩兵を率いて、第一岬要塞の附近に陣取って、見えない敵を睨《にら》んでいた。
「おい、通信兵。まだ本営からの命令は来ないか」
 すると、中尉の傍《そば》についていた通信兵が、背中に負うた受信機を、重そうにゆすぶり直して、
「はい、まだ、何にも伝達がありません」と、答えた。
「どうも、遅いなあ。敵が何者であるぐらいのことは、早く示してもらわないと隊を指揮するのに困る」
 彼は、口をへの字に結んで、冷いトーチカのうえに、両腕をのせた。
 そのとき、どこからか、低い呻《うな》りをきいたように思った。
「隊長。本営からの命令です」
「な
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