ついたのか急に口に手をあて、
「いや、恐れ入りました」
「おい、司令官。早く行け」と、大総督はにがり切って怒鳴《どな》った。「お前は、役目柄そんなこと位を知らんでどうするのじゃ。いずれ後でゆっくり叱ってくれるわ」


   前衛部隊

 第一岬要塞の附近はあやめもわかぬ闇の中に沈んでいた。
 だが、大総督から、とつぜんの命令が下ったので、その闇の中にアカグマ国の軍隊が蟻《あり》の大群のように、真黒に集まってきた。いずれも、真黒な合金の鎧《よろい》で身体を包み、頭の上には、擬装のため、枯草や木の枝などをつけ、顔には防毒面をはめ、手には剣と機関銃と擲弾《てきだん》装置のついた奇妙な形の武器を持ち、ものすごい武装ぶりであった。
 またこの兵士たちは、戦車を小さくしたような靴を両足に履《は》いていた。これは、背嚢《はいのう》の中にあるガソリンタンクからガソリンを供給され、その戦車型の靴を動かすのであったが、最大時速は八十キロと称せられていた。スピードは、股《また》を開いたり、閉じたりするその加減によってどうでも自由になるのであった。このアカグマ国独特の歩兵部隊は、陸上では、世界において敵なしと
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