せていたが、
「はい、そのとおりでございます。小官はあらゆる捜索機関に命令を下しまして、念入りに取調べさせたのでございますが話のとおり、全く猫の仔一匹どころか、鼠《ねずみ》一匹いないのでございます」
「ほほほほ、それはあたり前の話だわ」
と、とつぜん、横合から、無遠慮に笑いごえをあげたものがあった。
「なにッ」
大総督と司令官とが、こえのする方へふりかえったとき、そこには九つか十ぐらいの、かわいらしい下げ髪の女の子が立っていた。
「なんだ。誰かと思えば、トマト姫か」
トマト姫は名のとおり、顔がまんまるで、そして頬《ほ》っぺたがトマトのように真赤な少女だった。そして金髪のうえに細い黄金の環《わ》でできた冠《かんむり》をのせているところは、全くお人形のように可愛《かわい》い姫君だった。これは大総督スターベア公爵の、たった一人のお嬢さまだった。
「だって、お父さま。海には、鴎《かもめ》だの、飛魚《とびうお》はいても、猫だの、鼠だのはいないでしょう。お父さまたちのお話は、ずいぶんおかしいのね」
「あっ、そうか」
と、大総督は、くるしそうに顔をゆがめ、長い髭を左右にひっぱったが、
「おい
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