、蛙《かえる》のように、平《へい》つくばった男が一人!
「おお、秘密警察隊の司令官ハヤブサじゃないか。どうした、何か事件か」
「はい、一大事|勃発《ぼっぱつ》で……」
「一大事とは、何事だ」
「第一岬|要塞《ようさい》の南方洋上十キロのところにおいて、折からの闇夜《あんや》を利用してか怪しき花火をうちあげた者がございます」
「なんじゃ、闇夜? はて、もう日は暮れていたのか」
「直《すぐ》に、現場を空と海との両方より大捜査いたしてございまするが、何者も居りません、結局、残りましたのは、あの怪しい花火が、前後三回にわたってうちあげられ、附近を昼間のごとく明るく照らしたばかりにございます」
「ふーん。はてな……」
 と大総督は、椅子の蔭に平つくばる密偵司令官ハヤブサと、おどろきの眼と眼とを見合せた。


   トマト姫

 大総督スターベア公爵は、祝酒の酔いが、さめかかったのを感じた。
「おい、司令官ハヤブサ。本当に、のこるくまなく捜索してみたのかね。そして、猫の仔《こ》一匹見つからなかったのかね」
 司令官ハヤブサは、蒼白《そうはく》な顔色で、大総督の足許《あしもと》に、身体をこまかく震わ
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