て置きたいといったのは、そんなものではないのじゃ」
「え、勲章の話ではなかったのですか」
「東洋人というものは、お主《ぬし》のように、左様《さよう》に貪慾《どんよく》ではない。余の欲しいのは、白紙命令書《はくしめいれいしょ》だ。それを百枚ばかり貰いたい」
博士は妙なことをいいだした。白紙命令書というのは、まだ命令の文句が書いてない命令書のことであった。
「白紙命令書百枚もよろしいが、何にお使いですかな」
と、ゴンゴラ将軍は腑に落ちない顔。
「知れたことじゃ。お主から頼まれた一件を果すためには、万事極秘でやらにゃならん。だから余だけが計画内容を知っているということにするには、白紙命令書を貰ったのが便宜《べんぎ》なのじゃ。尚その命令書には『追《おっ》テ後日《ごじつ》何等カノ命令アルマデハ本件ニ関シ総指揮官部へ報告ニ及バズ』と但書《ただしがき》を書くから、予め諒承《りょうしょう》ありたい」
3
ゴンゴラ総指揮官は、遂《つい》に白紙命令書百枚を金博士に手交《しゅこう》して、博士の手腕に大いに期待するところがあった。
ところが、それから一週間たっても、二週間たっても、金
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