、そうはいかん」
「よろしい、バーター・システムで取引しよう。一体どんな毒瓦斯が入用《いりよう》か。フォスゲン、ピクリンサン、ジフェニルクロルアルシン、イペリット、カーボンモノキサイド、どれが欲《ほ》しいかね」
 下は人工灯《じんこうひ》の海、上は星月夜《ほしづきよ》、そして屋上は真暗《まっくら》だった。その真暗な屋上に立って、金博士は大きく両手をひろげる。
「そんなものは、どれも欲しくありません」
 醤は人一倍大きな頭を左右に振る。
「ほう、これじゃ気に入らんのか」
「博士《せんせい》。余《よ》――いや私の欲しいものは、そんな従来《じゅうらい》から知れている毒瓦斯ではありません。そんな毒瓦斯は、吸着剤《きゅうちゃくざい》の活性炭《かっせいたん》と中和剤の曹達石灰《ソーダーせっかい》とを通せば遮《さえぎ》られるし、ゴム衣《い》ゴム手袋ゴム靴で結構《けっこう》避《さ》けられます。そういう防毒手段のわかっている毒瓦斯は、今じゃどこへ持っていって撒《ま》いても、効目《ききめ》がありません。もっとよく効く、目新らしいものがいいですなあ」
 南京虫退治《ナンキンむしたいじ》の新剤《しんざい》を探
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