んせい》であった。二人は、まるで舷門《げんもん》から上って来た司令官を迎えるように、極《きわ》めて厳《げん》たる礼をもって金博士に敬意を表《ひょう》した。
博士は、几帳面《きちょうめん》に礼をかえすどころか、いきなり醤の瘠せた肩をどんと叩いて、
「おい、ウィスキーにペパミントの約束、あれはまちがいないじゃろうな。一本が五百元もするぜ。お前そんなに金を持っとるか」
と、無遠慮《ぶえんりょ》な問いを発した。
「や、それはもう大丈夫です。御承知のとおり、昔からイギリスと深い関係がありますものですから、武力こそ瘠せ細っていますが、黄金であろうとダイヤモンドであろうとウィスキーであろうと、そんなものは、うんとストックがあります」
「ほ、ん、と、ですか」
「もちろん本当です。国《くに》破《やぶ》れて洋酒ありです。尤《もっと》も早いところストックにして置いたのですがね……しかし博士《せんせい》、毒瓦斯の方のことですが……」
「うん、毒瓦斯なんて、他愛《たあい》もないものじゃ。ウィスキーになると、そうはいかん」
「いや博士《せんせい》、ウィスキーなんて浴《あ》びるほどあります。毒瓦斯の研究となると
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