》じゃな。お前はまだ生きていたんか」
 醤買石といえば、あの有名なる抗日遷都《こうにちせんと》将軍の名である。すると醤買石も、ついに人間の皮を被《かぶ》っては遷都する先がなくなって、遂に大蜘蛛に化けたのであるか。それとも、彼はオーストラリヤで戦車にのし烏賊《いか》られて絶命し、魂魄《こんぱく》なおもこの地球に停《とどま》って大蜘蛛と化したのであるか。
「あれ、金|博士《せんせい》。醤はそう簡単に死にませんよ。しかしとにかく、博士にお目にかかりたいばかりに、部下もつれずに単身、きびしい監視網《かんしもう》をくぐって、ようやくここまで参りました。そしてとうとう博士に行き会いまして、こんな嬉しいことはございません。ふふふふ」
 ふふふふは、醤の笑い声ではない。感激の泣き声である。泣き声がその極致に達すれば笑い声に似たる――ああもうその解説はよろしいか。なるほど前にも鳥渡《ちょっと》書きましたなあ。
「泣くなよ、醤。お前は小便小僧《しょうべんこぞう》時代から泣きべそじゃったな。東に楠《くすのき》の泣き男あり、西に醤買石ありで、ともに泣きの一手《ひとて》で名をあげたものじゃ。で、わしに会いに来た
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