》をちゅっちゅっ吸われたら、いかな頑固爺《がんこおやじ》の金博士であろうと、ひとたまりもなかろうと思われた。
「もしもし金|博士《せんせい》、おなつかしゅうございますなあ」
とつぜん、その大蜘蛛が金博士に言葉をかけたのだった。冗談《じょうだん》じゃない……。
「うん」
博士の鼓膜《こまく》に、その声が入ったのか、博士は生返事《なまへんじ》をした。生返事をしただけで、彼はなおも飾窓の青いペパミントの値段札に全身の注意力を集めている。
「博士《せんせい》は、いつに変らず御壮健《ごそうけん》で、おめでとうございます。この前、金博士にお別れをしてから、もうかれこれ五六年になりますなあ」
その化け物のような大蜘蛛は、しきりに金博士をなつかしむのだった。これを横から眺めていると、博士も亦《また》、蜘蛛の化け物じゃないかという疑いが湧《わ》いてくる。そういえば「新青年《しんせいねん》」誌上にのっている金博士の顔は、蜘蛛の精じみた風貌《ふうぼう》をもっているよ。
閑話休題《さて》、金博士は、ようやく注意力の二割がたを、蜘蛛の声に向けて割《さ》いた。
「おう、そういうお前は醤買石《しょうかいせき
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