あたかも笑声のような音を発するものである。嘘だと思ったら、読者は御自分で験《ため》してみられるがよろしかろう。
「あはは、あの味のわるいウィスキーが一壜五百|元《げん》とは、べら棒な値段じゃ。その昔、重慶相場《じゅうけいそうば》というのがあったがその上をいく暴価《ぼうか》じゃ。同じ五百元でも、こっちのペパミントがいい。こいつを、氷の中に叩きこんで、きゅっきゅっとやると、この殺人的暑さは嵐にあった毒瓦斯《どくガス》の如く逃げてしまうことじゃろうが、それにしても五百元とは高い、今のわしの財政ではなあ」
 金博士は、このごろアルコールに不自由をしている上に、金にも困っていると見え、さてこそ極限歎息《きょくげんたんそく》の次第《しだい》と相成《あいな》ったらしい。
 丁度《ちょうど》そのときであった。金博士の頭を目がけて、一匹の近海蟹《がざみ》のようによく肥《こ》えた大蜘蛛《おおぐも》が、長い糸をひいてするすると下りてきた。そして、もうすこしで、金博士のヘルメットにぶつかりそうになって、ようよう下《さが》るのを停めた。おそるべき大蜘蛛だ。こんなやつに頸《くび》のあたりを喰いつかれ、生血《いきち
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