た。
その結果は、どうであったか。
醤買石は、生命からがら、怒濤《どとう》のような敵の重囲《じゅうい》を切りぬけて、ビルマ・ルートへ逃げこむという騒ぎを演じた。
燻精の作った新製の毒瓦斯は、悉《ことごと》く無力であった。いや、うまそうな匂いをもって、反《かえ》って敵兵をふるい立たしめるという反効果《はんこうか》があったくらいであった。燻精は、その戦場において捕虜となり、やがて病院に入れられた。
この顛末《てんまつ》を聞いて、からからと笑ったのは余人《よじん》ならぬ金博士であった。
彼は唐箋《とうせん》をのべて、醤買石|宛《あて》に手紙を書いた。
“謹呈《きんてい》。どうだ、持久性神経瓦斯の効目は。燻精は、わしのところから出ていくとき、特設の通路内で無味無臭無色無反応の持久性神経瓦斯を吸って戻ったのだ。だから、そちらの陣営に帰りついたころから彼はそろそろ、脳細胞の或る個所が変になりはじめたはずだ。彼の発明製造した毒瓦斯なんか、どうして信用がおけようぞ。おい醤よ、これに懲《こ》りて、今後を慎《つつし》めよ”
なるほど、そうだったか。肝腎《かんじん》の毒瓦斯発明院長の燻精が、金博
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