来ん。あ、また霊感が湧《わ》いた。おおそうか、この毒瓦斯に芳香《ほうこう》をつけるのだ。鰻《うなぎ》のかば焼のような芳香をつけるのだ。無臭瓦斯《むしゅうガス》よりもこの方がいい。敵は鼻をくんくんならして、この瓦斯を余計《よけい》に吸い込むだろう。ああなんというすばらしい着想点だろう! 鰻のかば焼の外《ほか》に焼き鳥の匂い、天ぷらの匂い、それからライスカレーの匂い等々《とうとう》、およそ敵兵のすきな香《かおり》を、この毒瓦斯につけてやろう。なんと醤委員長、すばらしい発明ではないですか」
「なるほど、積極的吸入性のある毒瓦斯じゃな」
醤は、にやりと笑って、燻精院長の手をしっかと握った。
この新製毒瓦斯が、予定の数量だけ出来上ったのは、その年の夏だった。
醤は燻を帯同《たいどう》し、その毒瓦斯をもって、突如《とつじょ》戦線に現れた。
そして朝から時間割を決め、午前七時には鰻の匂いのする神経瓦斯を、午前九時には水蜜桃《すいみつとう》の匂いのする神経瓦斯を、午前十一時には、ライスカレーの匂いのする神経瓦斯をと、用意周到な順序で次々に瓦斯弾《ガスだん》を、敵軍戦線へ向けて撃ちだしたのであっ
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