空軍の目をのがれるため、外観は出来るだけ荒《あ》れ果《は》てたままにしておいた。しかし、あの煙突だけは、仕方なく建てた」
太い煙突が古城の上にぬっと首をつきだしている。
「あれは何ですか、あの煙突は」
「試作《しさく》の毒瓦斯が空高く飛び去るためだ」
「毒瓦斯は元来空気より重きをよしとするのでありまするぞ。煙突から飛び立つような軽い毒瓦斯てぇのはありません」
「いや、その重い毒瓦斯の逃げ路も作っておいた。向うに見える太い鉄管《てっかん》は、海面《かいめん》すれすれまで下りている。重い毒瓦斯は、あの方へ排気《はいき》するんだ。風下はベンガル湾《わん》だ。海亀《うみがめ》とインド鰐《わに》とが、ちかごろ身体の調子がへんだわいといいだすかもしれんが……」
醤が毒瓦斯発明院に対して肩の入れ方は、非常なものだった。燻精は、彼の信頼に十分|報《むく》いることが出来ようと自信たっぷりだった。
発明院長に燻精が就任《しゅうにん》して、百三十五名の発明官が、その下に仕事を始めることになった。まず設備を作るのに、三ヶ月かかった。それから燻精の講義が三ヶ月つづいた。
燻精の講義は全くすばらしかった。
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