潜り戸を入った燻精師長のうしろで、ぱたんと扉《ドア》のしまる音がした。と同時に、博士が扉の向うで、さめざめと啜《すす》り泣くような声を聞いたと思ったが……。


     4


 南国の孤島において、醤《しょう》委員長は、あいかわらずの裸身《はだか》で、事務を執《と》っていた。例の太い附《つ》け髭《ひげ》はもう見えない。
 そこへ燻精が戻ってきた。
「おお帰ってきたか。して、金博士から、すばらしいネタを引き出したか」
「はい、持久性《じきゅうせい》の神経瓦斯《しんけいガス》……」
「叱《し》ッ。これ、声が高い!」
 醤は、手の舞い足の踏むところを知らずといった喜び方であった。彼は、燻精の手をとらんばかりにして、彼を砂地《すなじ》の上に立つ古城《こじょう》へ連れていった。
「さあ、ここが毒瓦斯発明院だ。看板も、余《よ》が直々《じきじき》筆をふるって書いておいた」
 なるほど、あちこち崩《くず》れている城門に、毒瓦斯発明院の立て看板が懸《かか》っていた。
「発明場は、すっかり用意をしておいたつもりじゃ。余|自《みずか》ら案内をしよう」
 衛兵の敬礼をうけつつ、御両人は城内に入った。
「敵
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