》しておいたと、あの醤めにいってくれ。さあ、引取るがよろしかろう」
「はいはい承知いたしました」
燻精には、何やら腑におちかねる点もあったが、今が引揚《ひきあげ》の潮時《しおどき》だと思ったので、博士をいい加減《かげん》にあしらった。着換えをすますと彼は博士の前に出て恭々《うやうや》しく三拝九拝の礼を捧げ、踵《きびす》をかえして、部屋を出《い》でんとすれば、何思ったか金博士は、急にうしろから呼《よ》び留《と》めた。
「ああ、お帰りはこちらだ。この狭い廊下をずっといって、やがて突当ると、自動式の昇降機がある。それに乗って一階へ出なさい。すると至極《しごく》交通に便なところへ出る」
と博士は、壁の釦《ボタン》を押し、壁に仕掛けてあった秘密の潜《くぐ》り戸を開いて、指した。
「ああそれはどうも。こっちに通路があるとは、全く存知《ぞんじ》ませんでした」
「こっちは特別の客だけしか通さないんだ。暫《しばら》く誰も通さなかったから、顔に蜘蛛《くも》の巣がかかるかもしれない。手で払いのけながら、そろそろ歩いていきたまえ」
「いや、御親切に、ありがとう」
「どういたしまして。はい、さようなら」
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