一向|昂奮《こうふん》もせず周章《あわ》てもせず、平気でやる。まあ、そういう最も常人らしい狂人に変質させるのが、わしのいう持久性神経瓦斯の効果じゃ。どうじゃな。君もそういう方向のものを考えてみてはどうかな」
「す、すばらしいですなあ」
 燻精師長は、盃を置いて、金博士に抱きついた。
「よせやい、気持のわるい」
 と、金博士は燻精を突き放し、
「さあ、もうそれだけのヒントを与えてやれば、お前は醤のところへ帰って、早速《さっそく》発明研究を始めていいじゃろう。さあさあ、とくとく醤の陣営へ戻れ」
「はい。では、引揚げましょう。永々《ながなが》と御配慮《ごはいりょ》ありがとうございました」
「いやなに、たった十分間の講義だけじゃ。しかしあのウィスキーにペパミント百四十函は、授業料としては至極《しごく》やすいものじゃ」
「あれだけの夥《おびただ》しい洋酒を捧《ささ》げても、まだ先生の方が御損《ごそん》をなさいますか」
「それはそうじゃ。甚《はなは》だわしの方が損じゃ。帰ったら醤に、そういっていたと伝えてくれ。しかし神聖なるバーター・システムの誓《ちか》いの手前、こっちでもぬかりなく按配《あんばい
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