続させるのじゃな」
「はあはあ、脳細胞を電解して歪みを持続させる……、それはおそろしいことだ。しかし電解させるというのなら、それは怪力線《かいりょくせん》の一種ではありませんか。毒瓦斯とはいえないでしょう」
燻精師長は、さすがに醤の信任があついだけに、するどく博士に突込《つっこ》む。
「怪力線の如きものでは、ぴりぴりちかちかと来て、相手に知れるから、よろしくない。もっと緩慢《かんまん》なる麻痺性のものでないといけぬ。わしの作った神経瓦斯は、全然当人に自覚《じかく》がないような性質のものだ。臭気《しゅうき》はない、色もなくて透明だ、もちろん味もない、刺戟《しげき》もない。もちろん極《ご》く緩慢な麻痺作用を起すものだから、はじめから刺戟を殺してあるのだ。しかもその後いつまでたっても当人は、瓦斯中毒になっているという自覚が起らないのだ。つまり常人《じょうにん》と殆んど変りない精神状態におかれてあって、しかも脳の或る部分が日と共に完全麻痺に陥《おちい》る。そうなると、たとえば、にこにこ笑って人と話をしていながら、手に握ったナイフで相手の心臓の真上《まうえ》をぐさりと刺すといったようなことを、
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