に、張合いがあるわけである。
「どうぞ、もうご安心なすって、発明の内容を……」
「ああ、そのことじゃが」
 と、それでも安心ならぬか、その客は、もう一度、部屋の隅から隅を見廻して、それから、そっと余の方へ、駱駝に似たその顔をつきだすと、低声になって、
「実は先生、拙者は大発明をしたのですぞ。その発明の要旨というのは、いいですか、人間の……人間のデス、人間の腕をもう一本殖やすことである。どうです、すごいでしょう」
「はあ、人間の腕をもう一本……」
 余は、途中で、言葉が出なくなった。せっかく来てくれたと思った客は、気違いであったのだ。余は、とたんに、給仕の高木にやった金二十五銭のアルミニューム貨のことが、恨めしく思い出された。
「おどろくのは、無理がない」
 と、客は善意にとってくれ、
「さぞ、愕かれたことだろう。実に、画期的の大発明とは、まさにこのことである。まったくすばらしい発明だ。従来の人間の腕は、たった二本だ。拙者の発明では、そこへもう一本殖やして、三本にするのだ。人間の働きは、五割方増加する。どうです、すばらしい発明でしょうがな」
 自画自賛――という字句は、この客のために用意
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